さいましたでございましょうね」
これで胸がすっとしたというように、あけすけといやがらせをいったものでしたから、右門はくすくす笑っていましたが、伝六を顧みるといいました。
「かわいそうだが、あっちの女も伝馬町へいっしょに引いていけよ。病気が直るまでじゃ。物騒で、うっかり放し飼いはできねえからな。――眠白もまた覚悟をしろよ。ともかくも、人間ひとりをなぶりごろしにしたんだからな。それから、召し使いに忘れずいっておきなよ。かわいそうな五雲のあとの始末を、ねんごろに営んでつかわせとな。では、伝六、そろそろ参ろうかな」
命じておいて、敬四郎のかたわらに歩みよりながら、ぷつりそのいましめを切り解くと、あの秀麗な面に、ほのぼのとした微笑をうかべながら、いかにも右門らしい皮肉をずばりとひとこと浴びせかけました。
「げっそりおやせなすったようだが、どうやらこれでまた命がつながりましたから、たんと娑婆《しゃば》の風でもお吸いなさいましよ」
そして、そのひとことの皮肉で、いっさいの憎みが洗い流されでもしたかのように、さっさと伝六のあとを追いました。
底本:「右門捕物帖(二)」春陽文庫、春陽堂書店
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