か自身番の寝ずの番に、ひっかからねえってはずあねえんだからな。野郎め、そいつを恐れやがって、番所のねえ町をたどりながら押し込みやがるんだよ」
「するてえと、敬公の野郎、そいつを気がついているでしょうかね」
「と申してあげたいが、あの下司《げす》の知恵じゃ、まず知るめえな。おおかた、今ごろは、まんまとおれに手を引かすることができたんで、のぼせかえりながら、せっせと被害者の身がらでも洗っているだろうよ」
「ちくしょう、くやしいな。お奉行さまもまたお奉行さまじゃござんせんか。なんだって、あんな野郎にお任せなすったんでしょうね。もし、今夜もだんなのおっしゃるように、指を盗まれる者があるとするなら、災難に会う者こそきのどくじゃござんせんか」
「だから、おれもさっきから、ちっとそれを悲しく思っているんだよ。おまえはおれのお番所へ行きようがおそかったんで、がみがみどなったようだが、断じておれのおそかったせいじゃねえよ。あばたの大将がことづてを横取りしやがったのが第一にいけねえんだ。第二には、身のほども知らずに、お奉行さまへ食いさがって、おれをのけ者にしたことがいけねえんだ。お奉行さまからいや、それほ
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