こにいるか、その居どころですが、こういう催しごとのあるたびごとに、いつもお町方付きの与力同心たちは、警衛警備がその第一の目的でしたから、かれら一統のさし控えていた席はちょうど東方西方のまんなかになっている棧敷《さじき》土間でありました。
だから、自然両方の声援ぶりがいちどきに耳にもはいり、目にもはいりますので、さっそく場所がらもわきまえず十八番《おはこ》のお株を始めましたものは、右門のいるところ必ず影の形に沿うごとくさし控えている例のおしゃべり屋伝六です。
「おッ、ね、だんなだんな! ちょっとあちらをご覧なせえましよ。世の中にゃ妙な顔をした女もあるもんじゃござんせんか。いま黄色い声で江戸錦に声援した腰元は、目が三角につり上がっていますぜ。あの顔で江戸錦をものにする気でいるんだから笑わせるぜ。――だが、そのうしろにちんまりとすわっている小がらのほうは、なかなか話せそうだな、ひと苦労するなら、まずあの辺かね」
そうかと思うと、今度は河岸《かし》を変えて、旗本席のほうをしきりにじろじろ見回していたようでしたが、うるさくまた話しかけました。
「ね、ちょっと、だんな、だんな! あそこのすみに
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