ば、知恵よりほかにないはずでござる。それも、右門の知恵袋ばかりは、ちっとひとさまのとは品物が違いまするぞ」
「あなたさまの知恵袋とやらが別物でござりまするなら、わたしの強情も別物でござります。いま道々聞けば、秀の浦とやらを殺害の嫌疑《けんぎ》でお呼び立てじゃそうにござりまするが、わたしも二の丸様付きの腰元のなかでは人にそれと名まえを知られた秋楓《あきかえで》、いかにも知恵比べいたそうではござりませぬか」
「ほほう、なかなか強情なことを申さるるな。では、どうあっても、秀の浦をあやめた下手人ではないと申さるるか」
「もとよりにござります」
「でも、あの御前|相撲《ずもう》がうち終わってからまもなく外出をしたことは確かでござろうがな!」
「確かでござりまするが、それがいかがいたしました」
「いかがでもない。これなる伝六へあの時刻ごろ外出をしたものがあったら、三人五人と数はいわずに皆連れてまいれと申したところ、そなたひとりだけを召し連れて帰ったによって、そなたに下手人の疑いかかるは理の当然でござらぬか。それに、第二の証拠はこのふところ紙じゃ。見れば、そなたの内ぶところから顔をのぞかせている紙も
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