ら、あごでもなでなで待っていなせえよ」
威勢よく伝六が駆けだしていったものでしたから、ここにおいてむっつり右門はほんとうにあごをなでなで、その帰りを待つこととなりました。
4
かくして、時を消すことおよそ小半刻《こはんとき》――。
「だんなだんな、大てがらですぜ。ホシの女《あま》しょっぴいてきましたから、さ、とっくり首実検をなせえましよ」
叫びながら伝六が表玄関に威勢よく駕籠《かご》をのりつけて、鼻高々とひとりの御殿女中を引ったててまいりましたものでしたから、右門はおもむろに短檠《たんけい》のあかしをかきたてると、まずそれなる女の首実検に取りかかりました。
ところが、それなる腰元がまた、こはそもなんと形容したらよいのか、まるでいもりのようなあくどさを備えた女でありました。わけても、そのくちびるにこってり塗られた口紅の赤さというものは、さながらいもりの赤い腹のごとき毒々しさを示していましたものでしたから、さすがの右門もちょっと毒気に当てられぎみで、ややしばしまゆをひそめていたようでしたが、やがて威厳を持った重々しいことばが、ずばりとその口から放たれました。
「すなお
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