だ五十そこそこの年配でしたから、せがれの陽吉に跡めを譲って隠居するにはまだ少し早いくらいに思いましたが、今の場合はそんな不審の穿鑿《せんさく》よりも、事の何であるかが第一でしたので、一礼するとただちに事件の顛末《てんまつ》の聴取にかかりました。
「何ぞ出来《しゅったい》いたしたそうじゃが、どんなことでござる」
「あっ、ご苦労さまに存じます。あの、妙なことをしちくどく念押しするようでござりまするが、ほんとうに右門のだんなさまでござんしょうか」
 すると、奇妙なことには、七郎兵衛がまた、右門であるかどうか、改まって念押ししたものでしたから、いぶかしく思って尋ねました。
「先ほど、お店のかたも念を押されたようじゃが、もしてまえが右門でなかったならば、なんと召さる?」
「おふたりさまを前にして、変なことを申すようでござりまするが、もし右門のだんなさまでござりませなんだら、なまじ事を荒だててもどうかと存じますので、差し控えようかと思うているのでござります」
「すると、なんじゃな、右門なら事をまかしても安心じゃというのじゃな」
「へえい、ま、いってみればさようでござります」
「いや、なかなか味のあ
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