ゃつまりそれなんですが、どうもいろいろとおかしい節がごぜえましてね」
「どのようなことじゃ」
「第一はお湯殿でごぜえますが、男の子ならなにもそんなまねしなくてもいいのに、どうしたことか陽吉さんは昔からひとりきり、別ぶろへへえりなさるんですよ。それも、四方板壁で、のぞき窓一つねえっていう変なお湯殿なんでね。だから、妙だなと思っているやさきへ、今度陽吉さんがおめとりなさった嫁っていうのが、どうもおかしなしろものなんですよ。だんながたはご商売がらもうご存じでごぜえましょうが、日本橋の桧物町《ひものちょう》に鍵屋《かぎや》長兵衛《ちょうべえ》っていうろうそく問屋があるんですが、お聞き及びじゃござんせんか」
「ああ、存じおる。名うての書画気違いと聞き及んでいるが、そのおやじのことか」
「さようさよう、その書画気違いのおやじでごぜえますよ。そいつの娘がつまり陽吉さんのお嫁さんになったんですが、奇妙なことに、その鍵屋にはふたり子どもがあっても、みんな男ばかりで女の子はねえはずだったのに、生島屋とのご婚礼まえになってから、ひょっくりと女の子がひとりふえましてね。そのふえ方ってものがまた妙なんで、今まで長崎のほうの親戚《しんせき》へ預けてあった娘を呼びよせたってこういうんですが、それはまあいいとして、そのかわり今までふたりあった男の子どものうちの、弟むすこってほうが、女の子のふえるといっしょに、ひょっくり消えてなくなったんですよ。長兵衛のいうには、長崎のその親戚へ女の子の代わりに次男のほうを改めてくれてやったと、こういってるんですがね。いずれにしても、男がひとり消えてなくなって、そのかわり女の子がひょっくりとひとりふえてきたんだから、もしや、と思ったんですがね」
「では、なんじゃな、そこに何か細工があって、若主人の陽吉は実際は女であり、嫁に来たろうそく問屋の娘っていうのが、もしやほんとうは男であるまいかと、こういう疑いがわいたと申すのじゃな」
「へえい、あっしだけの推量なんでごぜえますが、陽吉さんの別ぶろのことといい、ろうそく問屋の次男坊の見えなくなったことといい、なんかうすみっともねえ小細工しているんじゃねえかと思うんですよ」
なんぞ深い子細があっての盗みだろうとはすでに見きわめがついていましたが、七郎兵衛一家の上に、陳述のような疑雲がかかっているとするなら、ここに事件は意想外な
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