「ちくしょうッ、甘く見やあがったかな」
 あまりとんとんと鉄山殺しのめぼしがつきすぎたので、あるいはと思いながら多少の不安をおぼえて待っていると、だが、熊仲も、女犯の罪こそは犯したというものの、やはり法《のり》の道に仕える沙門《しゃもん》でありました。とうにお昼を回って、もうかれこれ八つに近い刻限、ようように姿を見せましたものでしたから、右門はさっそくにきめつけました。
「てかてか顔のほてっているところを見ると、またひのき稲荷《いなり》へ回って、般若湯《はんにゃとう》でも用いてきたな」
「冗、冗談じゃございませんよ。こりゃ、大急ぎに駆けてきたので、赤くなったんでござんすよ」
「大急ぎとは何が出来《しゅったい》したのじゃ」
「鉄山殺しの居どころがわかったんでござりますよ」
「なに、わかった? どこじゃ、どこじゃ」
「ここでなにかてがらをたてなきゃ、罪ほろぼしができないと存じましたからな。あんなぼろ寺でも住職のありがたさに、けさほど檀家《だんか》の縁日あきんどを狩りたてて、江戸じゅう総ざらえをいたさせましたら、耳なし浪人くまの檻《おり》を引き連れて、きょうから向こう三日間、四谷《よつや》
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