さようで。そこの黙山はまだ七つくらいでしたから何も存じませなんだようでしたが、兄の鉄山は九つか十でござりましたから、いろいろ手当をすると、いま申したようにかたきを捜して、江戸へ来たといいましたのでな、だれのかたきだと尋ねましたら、姉だというのでござりまするよ」
「では、親たちを国に残してきたというのじゃな」
「いいえ、それが早く両親に死に別れて、姉と三人兄弟だったというんですがな」
「するとなんじゃな、よくある横恋慕がこうじて、つい手にかけたとでもいうのじゃな」
「たぶんそうでござりましょう。おねえさまは南部のお城下で、お殿さまさえもがおほめになった小町娘だったというてでござりましたからな」
「女のこととなると、感心にくわしいことまで覚えているな」
「ご冗談ばっかり――。だから不憫《ふびん》と存じましてな。このようにひとまず兄弟とも出家をとげさせたうえで、てまえが今まで手もとにさし置いたのでござりまするが、するとつい死ぬふつかまえでござりました。夕がた兄の鉄山に門前をそうじさせていましたら、いきなり血相を変えて駆け込んでまいりましてな、かたきが今くまを連れて門前を通ったと、このようにい
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