ら駒《こま》が出たというやつじゃな」
 意外にもにらんだほしは全然の見当違いであったことがわかりましたものでしたから、右門はおもわず吐き出すようにいうと、からからとうち笑いました。
 けれども、いうがごとくにひょうたんから駒は出たかもしれませんが、ここにいたって、いよいよ迷宮にはいってしまったものは鉄山殺しの犯人自体です。熊仲《くまなか》と思ったそのクマが実は熊仲《ゆうちゅう》のユウであったとすれば、自然ここにもう一度鉄山の死にいくとき漏らしたというくま[#「くま」に傍点]についての詮議《せんぎ》を進め直さなければなりませんが、と――そのとき今はクマナカ和尚《おしょう》ではなく、ユウチュウ和尚となったそれなる女犯僧が、もじもじといいよどみながら、ふと右門にことばをかけました。
「まちがいとおわかりでしたら、実はだんなにおりいってのご相談がござりますがな」
「なんじゃ」
「もう二度とかような女犯は重ねませぬによって、今度のところはお目こぼしを願いたいものでござりますがな」
「虫のよいことを申すな。女犯の罪は出家第一の不行跡じゃ。おって寺社奉行のほうに突き出し、ご法どおり日本橋へさらし者に
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