なるべく痛くないように、だがけっして抜き取ることのできないように、術をもって若者の両手をおのがひざの下に敷いておくと、すばやく紙入れを改めました。
 けれども、予期に反して、その紙入れの中にはただ一本の銀かんざしがだいじそうに忍ばされてあるばかりでした。何か子細をかぎ知りうるような女からの艶文《つやぶみ》だとか、ないしはまた誓紙証文とでもいったようなものでもありはしないかと、心ひそかに予期していたのでしたが、ただ一本銀のかんざしがすべてのなぞを物語っているように、奥深く隠されてあったばかりだったのです。だか、その銀かんざしがなみなみの品ではないので、珍しい紋がきざまれてありました。達磨《だるま》の紋です。師僧|般陀羅《はんだら》の遺示により、はるばるインドから唐土に渡って、河南のほとり崇山に庵室《あんしつ》をいとなみながら、よく面壁九年の座禅修業を行ないつづけたと伝えられている、あの達磨禅師をかたどった紋様です。
 およそ何が珍しいといっても、おきあがりこぼしの達磨を紋にしておくような変わったかんざしもまれでしたから、早くも右門は明知の鋭さをそこに現わして、ひざに敷いている若者の心をえ
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