その他の風采《ふうさい》をうち見たところ、ひと目に実直なりちぎ者ということがわかったものでしたから、当人には何もいわずに、すぐと駕籠の者に命じました。
「どうせ八丁堀へ行く駕籠だ。おれの代わりに、この若者を乗せていけ」
 息を吹き返しているとはいいじょう、ついいましがた地獄の二丁目か三丁目あたりまで行ってきた人間を乗っけていけというのでしたから、いかに仏と縁の深い寺駕籠の陸尺たちであっても、これはあまりぞっとしない命令のはずでしたが、しかしむっつり右門の名声は、かれらにいやな顔をさせる余地のないほど広大でありました。深夜の町を黙々として八丁堀まで送り届けましたので、くだんの若い者を座敷へ伴っていくと、そこでようやく事の子細を尋ねることになりましたが、けれどもその尋ね方がまたまことに右門流です。
「どうだ、まだ死にたいか」
 そして、からからとうち笑ったものです。その尋ね方のよく人情の機微をうがって少しもむだ口をきかないあたりといい、ことばは簡単ながらなおよく言外に義侠心《ぎきょうしん》の強さをはらましているあたりといい、普通の場合の人間であっても、ぐっと骨身にこたえるところでしたから、
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