た女ならば、偽筆ということ看破しないともかぎらないからな。あの家へいって、もしいま亭主がいないようだったら、女にこっそりというんだぞ。清吉さんから頼まれての使いだが、あそこのかどのすし屋で待っているから、ちょっくら顔を貸しておくんなさいとな。もし、そのとき女が清吉の人相をきいたら、二十三、四の小がらな男だというんだぞ。――いいか、そら、少ないがお使い賃じゃ」
 小銀を一粒紙にひねって渡したものでしたから、何もかせぎと思ったものか、目あき按摩の久庵はほくほくしながら駆けだしました。
 さて、もうここまで事が運べば、それなる達磨《だるま》を好いた花魁《おいらん》薄雪の来るか来ないかが、右門の解釈と行動の重大なる分岐点《ぶんきてん》です。彼女が清吉の名による呼び出しにすぐにと応ずるぐらいだったら、あれなる若者を苦しめて縊死《いし》を決行させるにいたった原因は、あの疑惑中の人物上方の絹商人ひとりにあるに相違なく、もしまた彼女が今の呼び出しに応じないで、少しでも清吉という名まえから逃げのびようとするけはいがあったら、断然女も上方の絹商人と同腹にちがいないと思われましたものでしたから、そのときはこ
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