どに、按摩《あんま》灸針《きゅうしん》、吉田|久庵《きゅうあん》と看板の出ていた一軒を発見すると、ようやく見つかったといったような顔つきで、おどろき怪しんでいる伝六をしりめにかけたまま、ずかずかとそれなる家へはいってゆきながら、不意に横柄《おうへい》な口調で尋ねました。
「亭主はいるか」
「へえい、ここにひとりおります」
「ひとりおればたくさんだ。きさまが看板主の久庵か」
「へえい、さようで」
「でも、目があいているな」
「目あきじゃ按摩をしてならぬというご法度《はっと》でもあるんですか」
「へらず口をたたくやつじゃな。わしは八丁堀の者じゃ。隠しだてをすると身のためにならぬから、よく心して申すがよいぞ」
「あッ、そうでござんしたか。ついお見それ申しやして、とんだ口をききました。ときどき針の打ち違いはございますが、うそと千三つを申しあげないのがてまえの身上でございますので、だんながたのお尋ねならば、地獄の話でもいたします」
「いう下から地獄の話なぞと申して、もううその皮がはげるじゃないか。うち見たところ正直者らしゅうはあるが、なかなかきさまとんきょう者じゃな」
「へえい、さようで。それも
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