ら、この話の当時の吉原は、いわゆるもと吉原と称されている一郭です。和泉《いずみ》町、高砂《たかさご》町、住吉《すみよし》町、難波《なんば》町、江戸町の五カ町内二丁四方がその一郭で、ご存じの見返り柳がその大門通りに、きぬぎぬの別れを惜しみ顔で枝葉をたれていたところから、いき向きの人々はときに往々、柳町なぞとも隠し名にして呼んでいましたが、いずれにしても堅人たること天下折り紙つきのむっつり右門が、それも無粋といえば無粋な黒羽二重の五つ紋といういかめしい武家ふうの姿で、駕籠《かご》もうたせず、おひろいのまま、さっさとその大門をくぐって廓《くるわ》へはいりましたものでしたから、伝六がついにみたびめのうるさい質問を発しました。
「ちょっと待ってください、待ってください。廓へおはいりになるのはよろしゅうござんすが、まさかに、この朝っぱらからお遊びなさるんじゃござんすまいね」
実際、いちいちうるさいおしゃべり屋ですが、しかしまた一面からいえば無理もないのです。流連《いつづけ》大バカ、朝がえり小バカ、いきは昼間のないしょ遊びと番付はできていても、なにしろまだ五つといえば午前の八時なんだから、そんな時
前へ
次へ
全46ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング