このところずっと半死半生の病人でしたよ」
「どんな科《とが》でそんなに責められたのか、耳にしていることはないか」
「あっしどもは下人だから詳しい様子は知りませんが、密貿易をやった仲間がまだ三、四人とか御用弁にならないのでね、そいつらのいどころを吐かせるためにお責めなすったとかいいましたがね」
耳よりなことを聞いたものでしたから、右門の活気づいたことはもとよりのことで、ただちに昨夜まで禁獄中だったという病人たまりへやって行くと、ちらりと中の様子をのぞいていたようでしたが、不意に莞爾《かんじ》としながら伝六にいいました。
「なんでえ、ぞうさのねえことじゃねえか。おめえがちっとこれから忙しくなるぜ」
「えッ! じゃ、もうほしがついたんですかい」
「おれがにらみゃ、はずれっこはねえや」
「ありがてえッ。じゃ、すぐにひとっ走り出かけましょうが、方角はどっちですかい」
「まあ、そうせくなよ。こうなりゃもうこっちのものだから、あばたの大将にさっきの礼をいってけえろうじゃねえか」
皮肉そうににやにやと笑いながら、牢番詰め所の中へはいっていったと見えましたが、そこにあばたの敬四郎が必死のあぶら汗を流
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