揚げてしまいました。
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さて、引き揚げてしまってからの右門が、そろそろとまたむっつり右門の右門たるところを遠慮なく発揮しだしましたので、毛抜きを取り出しながらあごひげの捜索を始めたのもその一つですが、それよりもっと変なことは、ときどきにやりとひとりで思い出し笑いをやりながら、
「もう来そうなものだな。まだかえらんのかな」
そういっては、だれかを待ちでもするかのように、しきりとひとりごとをつぶやきつづけましたものでしたから、伝六がまた伝六の本来に返って、右門を右門とも思わぬ、粗略な言を無遠慮に弄《ろう》しはじめたのは当然なことでありました。
「ちえッ、うすっ気味がわるい! 思い出し笑いなんぞおよしなせえよ。どなたさまをお待ちかねか知らねえが、あっしにないしょでそんな隠し女をこしらえたりなんかすりゃ、だんなにおぼしめしのある江戸じゅうの女を狩りたててきて、娘|一揆《いっき》を起こさせますぜ」
しかるに、右門は依然あごひげをまさぐりながら、にたりにたりとやっては、その日一日、まだ来ないか、まだ帰らんかをつぶやきつづけたのみならず、それが翌朝にまでも及びましたものでしたか
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