岸《かし》のやつらはぽん助というんでげすよ」
「よし、もうあいわかった。さては、きさまがさっき手紙の使者に参った魚勘とかの若い者だな」
「へえ、そうなんですが、どうしてまたそれがおわかりなすったんですかい」
「きさま今、河岸といったじゃねえか」
「ちえッ、おっかねえことまで見ぬいてしまうだんなだな。してみるてえと、おれが隣のお美代《みよ》坊に去年から夢中になっていることも、もうねた[#「ねた」に傍点]があがっているんかな――」
とんだところで魚勘の若い者は、あだ名どおりのぬけ作たる馬脚を現わしてしまいましたが、右門はもはや第一段の尋問を了しましたので、ずかずかと棺のそばに歩みよると、ぶきみさにもひるまずに、そのうわぶたをはねあげて、死者の白衣をはだけながら、第二の死体点検にとりかかりました。
と同時に、右門のまなこを最初にはげしく射たものは、その胸の右乳下に見えるあの卍《まんじ》のいれずみ――たしかに破牢罪人の同じ右乳下にもあったはずの、あのいぶかしき卍の朱彫りでありました。だから、なんじょうその慧眼《けいがん》の光らないでいらるべき、烱々《けいけい》としてまなこより火を発しさせる
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