終わり]
「この五枚を、日本橋とか浅草といったような、人出の個所へすぐさまお立てなすって、夜この時刻に、あの森のあたりにでも張り込んでいたら、十中八、九逐電中の三人をも、ご貴殿のてがらにめしとることができましょうよ」
立て札を手渡しながら敬四郎に注意をしておくと、右門はさらに権右衛門夫妻に言い渡しました。
「わしの慈悲が肝に銘じたならば、逃ぐるようなこともあるまいによって、流罪のおさばきが決まるまでこのまま当屋敷に起きふしをさし許すから、その間にじゅうぶん島へ渡るしたくなど整えておくがよいぞ。――では、伝六、そろそろまた主従ふたりきりの大名道中いたそうかな」
そして、伝六に槍をかつがせると、さっさと表へ出ていってしまいました。
――その翌々日の朝でありました。右門の貸してやったあの立て札の機知によって、案の定残りの卍組三人をめしとって、あばたの敬四郎がほくほくしながらお組屋敷を訪れると、精いっぱいの感謝を現わしながらいいました。
「いや、おかげで、えらいてがらにありつき、お礼のいいようもござらぬ。どうしたらよろしいか、てまえにはくふうもつかぬが、何をお礼にしたらよろしゅうござろうな」
すると、右門が言下に答えました。
「拙者へのお礼よりも、これから先、ここにいる伝六なぞを、あまりむごく扱わぬことがなによりでござりまするな。お互いこういうかわいい小者があってこそ、お上のご用も勤まるのでござりまするからな」
そして、そこに敬四郎がいるというのに、右門はたったそれだけいってしまうと、なにごともなかったような顔つきで、もうつんとあごのひげをまさぐりだしました。
底本:「右門捕物帖(一)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:Juki
2000年4月10日公開
2005年6月30日修正
青空文庫作成ファイル:
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