ちくしょうッ、いやな野郎がうせやがった、というような顔つきで、口をとがらかしていた伝六をしり目にかけながら、にたにたとうち笑って敬四郎のところへ歩みよっていったとみえましたが、いきなりぺこりと腰を曲げると、ごく屈託のなさそうにあいさつをいたしました。
「よくお越しなされました。では、ごいっしょに現場の検分をいたさせてもらいますかな」
めんくらったのは敬四郎で、またこれはめんくらうのが当然でしたろう。普通の場合ならば、お互い先にねたをあげたものがてがらとなるんだから、負けるまでにも競争するのは当然なのに、われらのむっつり右門にかぎっては、いっこうそんなけぶりすらも見えないで、涼しげにばたばたと胸もとへ白扇の風を入れていたものでしたから、敬四郎はむッとただ右門をにらみかえしたばかり――。しかし、右門はすましたもので、にやにや笑いながらあとへついていくと、べつに鋭い観察を下すようなそぶりも見せずに、敬四郎のうしろからちょいと顔を出して、お検視がすまないためまだそこにひっころがしたままの二つの仏を、ほんのいっぺんどおりじろりと検分いたしました。しかも、検分と名のつくものはただそれっきりで、
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