ちょっと右門流の細工をしたまでさ」
「ありがてえッ、そうと聞きゃ、もうこっちのものだ。じゃ、前祝いに駕籠《かご》をおごろうじゃござんせんか。この暑いのに、右門のだんなともあろうおかたを汗びたしにさせたといっちゃ、あっしが女の子たちに合わす顔がござんせんからね」
現金なところもあるがあいきょうのあるやつで、伝六がかってな理屈をつけながらつじ駕籠を雇ってまいりましたので、右門も苦笑しながらうちのりました。もちろん、行き先はわき道もせずに八丁堀へ――。
2
ついたときにとっぷりと日が暮れて、八丁堀あたり下町かいわいはちょうど今が夕涼みの出さかりどき、もちろん右門はあの張り紙をくだんの若衆が発見するかぎりにおいては、まちがいなくこよいにも訪れてくることと確信を持っていたものでしたから、その夕涼みにも出かけないで、いまかいまかと待ちわびていましたが、しかしどうしたことか、予期の訪問者はなかなか姿を見せなかったのです。五つ、四つと、やがてもう夜なか近くになろうとしても、いっこうその人らしい足音すらも聞こえなかったものでしたから、信ずることも早いが疑うことも早い伝六が、不安の声を発
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