が、どうしたことか、生まれおちるからのそろいもそろった左ききだそうでござります」
「なに、ふたごの兄弟※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
「はい、おふたりとも杉弥さまよりか二つ上のはたちとかにござりまするが、お家がらもよろしいし、日ごろおとなしやかなおかたたちでござりましたので、ついおととしの春ご元服あそばされるまでは、やはりお小姓方をおふたりともお勤めでござりました」
「むろん、剣道達者でござろうな」
「はい、おふたりとも、そろいもそろって無念流とかのおじょうずにござりますので、家中のみなさまがたが、珍しいおふたごだと、もっぱらのご評判にござります」
 聞くと同時に、右門のまなこはぎらぎらと異様な輝きを見せていましたが、突然、意外なことを少女に尋ねました。
「そなた水泳ぎはご堪能《たんのう》でござらぬか」
「ござりましたら、いかがなされまするか」
「そなたのいとしい杉弥どののお難儀を救ってしんぜるが、おできにござるか」
「できますでござります、できますでござります。杉弥さまをお救い願えますことならば、どのようなことでもいたしまするでござります」
「でも、男どもといっしょに泳ぐのでござるぞ」
「恋しいおかたのためならば、身の恥も悲しみも、けっしていといませぬ」
 げにや恋ぞ強し!――可憐《かれん》きわまりなかった少女の面は、ほのぼのと熱をきたして、言下に答えたその声すらも、凛乎《りんこ》として決断の強さを示していたものでしたから、右門も同時に命ずるごとくいいました。
「では、夕月ごろまでに、それなるふたごの兄弟を巧みに誘い合わせて、なるべく薄着の水じたくをご用意しながら向島の水神へお越しめされい。少々ぐらいは秋波《ながしめ》なりとそれなる兄弟にお与えなさって、巧みに誘い出さるがよろしゅうござりまするぞ。かの者どもといっしょに泳ぐ旨も忘れずに申されてな。のう、よろしゅうござるか」
 なにかは知らぬながらも、すぐと百合江がうちうなずいて、欣々《きんきん》としながら立ち去りましたものでしたから、右門はすばらしく朗らかにいったものです。
「さ、伝六、これから英雄閑日月というやつだ。きさまにも今夜ちっとばかり目の毒になることを見せてやるから、今のうちにゆっくりと昼寝でもしておきなよ」
 いったかと思いましたが、ほんとうにもうその閑日月ぶりをそこに始めました。

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