を打ちました。
「では、てまえのほうからお尋ね申すが、もしやそなたは刀の詮議《せんぎ》をなさってではござらぬか」
 と――、ずぼしに的中したかのごとく、おもわずぎくりとなった様子でしたが、そのほしを見ぬかれてはと思ったものか、ようやくにして相手が口を開きました。
「慧眼《けいがん》、いまさらのごとくに感服つかまつりました。それまでも、わたくし腹中をお見通しでござりましたら、このうえ隠すは無益にござりますので、いかにも胸中の秘密お明かしいたしまするが、けっしてお他言はござりませぬでしょうな」
「かくのとおりにござる」
 莞爾《かんじ》として笑《え》みをのせると、かちりと強く金打《きんちょう》して見せましたものでしたから、たのもしげな右門のその誓約にようやくお小姓は愁眉《しゅうび》を開いて、事の子細を打ち明けました。
「何を隠しましょう、わたくしは越前松平家のお小姓にて、石川|杉弥《すぎや》と申す者にござりまするが、殿からお預かり中のけっして世に出してはならぬたいせつな一腰を、お目がねどおり何者にか盗みとられ、殿よりもきついおしかりをこうむりましたので、爾来《じらい》六日ばかりというもの、かく面やつれのいたすほど心魂を砕いて詮議をいたしておりましたところ、はからずもきょう、あの寺の墓地で、新墓をあばいた者のあった由を承りましたから、もしやその下手人でもが死に胴だめしをしたのではなかろうかと存じ、なんぞの手がかりでもと、こっそり様子探りに出向いたところを、かくあなたさまに見つけられたのでござります」
 さもあろうと思っておりましたから、右門は石川杉弥と名のったそのお小姓の告白をうちうなずきながら聞いていましたが、しかし問題は盗みとられたというその刀です。けっして世に出してはならぬといったその刀です。何者の作だろうとしばらくうち案じていましたが、まもなく推定がつきましたものですから、右門はずばりとほしをさしていいました。
「いや、よく打ち明けくだされて、てまえも心うれしく存ずるが、おそらくその刀、村正《むらまさ》でござろうな」
 すると、同時に石川杉弥がぎょッとなりながら、人に聞かれてはならぬというように、すばやくあたりを見まわしました。……一見不思議な態度に思われまするが、しかし、実は少しもこれが不思議でないので、なぜかならば、当時のごとき徳川もまだお三代ごろのご時勢にお
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