のおやじっていうのも、いっこうに不思議はねえや。じゃ、五つから四つといや、ちょうど今がその時刻だから、大急ぎに深川へ駕籠《かご》だ、駕籠だ!」
いうと、八卦見の始末は自身番に頼んでおいて、すぐに飛びつけさせたところは、いうまでもなく八幡裏の路地奥にあるお静が継母のわび住まいです。しかし、家の中へははいらずに、足音を忍ばしながら裏口へ回ると、ちょうどそこに障子の破れめがあったものでしたから、息をころして中の様子を伺いました。
と――、問題の継母は、こんな時刻になってなんの必要があるものか、伝六の報告したとおりな色香ざかりのみずみずしい上半身をあらわにむき出して、しきりにせっせとお化粧のさいちゅうでしたから、右門はずぼしが的中したとでも言いたげに、にたりとほくそえみをのこすと、伝六を伴ってぬき足に引き返しながら、ぴたりとこごむように身を潜めさせたところは、それなる家に通ずる細路地の入り口のくらがりでありました。いうまでもなく、これは何者か待ち人のあることを物語っていた行動でしたから、伝六も察して息を潜めていると、ややあって、ちゃらりちゃらりと雪駄《せった》の音も忍びやかに、その細路地め
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