へおり立って、まだおそらく十か十一くらいの年歯《としは》だろうと思われるのに、手おけを片手にしながら、さっさと井戸ばたへ出ていったものでしたから、鼻をつままれて少しくぼんやりとしてしまったものは、いつもながらの伝六だったのです。
「だんなのするこったから何かいわくがござんしょうが、まさかこれっぽちの暑さで、脳のぐあいをそこねたんじゃござんすまいね」
いったかいわないかのときでありました。しかるように鋭いことばが、不意に右門の口から発せられました。
「あいかわらずのひょうきん者だな。さ! 深川だ、深川だ! 深川へいって、あの小娘のおふくろを洗ってくるんだ!」
「えッ、おふくろ……? だって、小娘はまさに判然と、おやじの死に方がおかしいから、そいつを洗ってくれろといいましたぜ。だんなの耳は、どこへついているんでござんすかい」
「あほうだな。おれの耳は横へついているかもしれねえが、目は天竺《てんじく》までもあいていらあ。てめえにゃあの子の首筋と手のなま傷がみえなかったか!」
「え……? なま傷……? なるほどね。そういわれりゃ、三ところばかりみみずばれがあったようでござんしたが、ではなんで
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