控えていたことでありました。まことに、知恵伊豆とむっつり右門の腹芸は、いつの場合でもこのとおり胸のすくほどぴったりと呼吸が合っておりますが、いうまでもなく、それというのは、右門もはるか末座においてこの珍事をみとめ、早くもこいつ物騒だなとにらんだからのことで、だからわいわいとたち騒いでいる満座の者を押し分けて、倉皇《そうこう》としながら参向すると、一言もむだ口をきかないで、ただじいっとばかり伊豆守の顔を見守ったものです。
「おう、右門か。さすがはそちじゃ。場所がらといい、場合といい、深いたくらみがあって、わざわざかように人騒がせいたしたやもあいわからんぞ。はよう行けい!」
 同時に、伊豆守のせきたてるような命令があったものでしたから、ここにいよいよわれらがむっつり右門の捕物《とりもの》第五番てがらが、はからざるときに計らざることから、くしくも開始されることにあいなりました。

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 もちろん、牛若丸はあれっきり屋台の上に水あわを吹いたままで、町内の者をはじめ各山車山車の騒擾《そうじょう》はいうまでもないこと、物見高いやじうまが黒山のごとくそれをおっ取り巻いて、さながら現場は戦
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