ました。しかし、異様なのはその髪の形で、ざんばらとした洗い髪なのです。それから白衣――。
だから右門はすかさずにいいました。
「幽霊のまねして、この大いちょうにでもぶらさがるつもりだったんだな」
女は答えるかわりにやや凄艶《せいえん》な顔つきで、にたにたと笑いました。
そのとき、じゃんじゃんと鳴り渡るすり半とともに、どやどやと駆けつけてきたものは、江戸の名物火事ときいて鳶《とび》の装束の一隊でありました。とみると、右門は頭《かしら》に向かって凛《りん》といったものです。
「八丁堀の近藤右門じゃ。にせ金使いの一味をめしとるために、わざわざ放った火じゃによって、消すには及ばぬ。ただしかし、近所へ迷惑かけてはならんからな、飛び火だけは気をつけるがよいぞ」
言いすてると、急に気の強くなった伝六になわじりをとらして、さっそうとしながら引き揚げてまいりました。お白州へかけるまでもなく、一団は右門のいったとおりのにせ金使いで、のみならず火にかけたあの一軒家こそは、それなる一味の巣窟《そうくつ》であったばかりではなく、にせ金を鋳造していた場所だったのです。大いちょうのうつろを通路に、地下へ穴倉
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