に受け取れたものでしたから、それをお化けとでも勘違いしての悲鳴であったことはただちにわかりましたが、だから普通の者ならば当然苦笑いでも漏らして、そのまま、なんの気なく通りすぎてしまうべきところでしたのに、ところが少しばかりそこがむっつり右門の他人とは異なる点でありました。不断に細かく働かしているその頭の奥へ、今の職人の口走った、それみろい、いううちに出たじゃねえか、という一語がぴんとひびいたものでしたから、のがさずに突然うしろから呼びとめました。
「これ、町人、まてッ」
「えッ……! ご、ご、ごめんなさい、だ、だんなを幽霊といったんじゃねえんですよ」
「だから、聞きたいことがあるんだ。そんなにがたがたと震えずに、もそっとこっちへ来い」
「い、い、いやんなっちまうなあ。ますます気味がわるくなるじゃござんせんか。ま、ま、まさかに出ていったところをばっさりとつじ切りなさるんじゃござんすまいね」
「江戸っ子にも似合わねえやつだな。しかたがない、名まえを明かしてとらそう。わしは八丁堀の右門と申すものじゃ」
「えッ。そ、そうでしたかい。お見それ申しやした。むっつり右門のだんなと聞いちゃ、おらがひい
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