実際、もうぞうさはあるまいと思われたものでしたから、いううちに右門は立ち上がったもので――荒い弁慶じまの越後《えちご》上布に、雪駄《せった》へ華奢《きゃしゃ》な素足をのせながら、どうみてもいきな旗本のお次男坊というようないでたちで、ほんとうにぶらりぶらりと涼みがてらに入舟町さしてやって参りました。
行ったとなれば、うちを捜しあてるくらいなことはなおさらぞうさがないので、小唄の一つも教えようというような細ごうし造りのうちを捜していくうちに、菊廼屋歌吉《きくのやうたきち》といった目的のお師匠さんがすぐと見つかりましたものでしたから、念のために伝六を表へ張らしておいて、単身中へずいとはいっていきました。
ところが、右門は座敷へ上がると同時に、おもわずぷッとふき出してしまいました。いかにも菊廼屋歌吉なる小唄の師匠は話どおりに年増の女でしたが、女は女であっても少しばかり年増すぎたからです。どう若く踏んでも六十七、八というおばあさん。で、もうおおかた腰は曲がり、耳も少し遠いようで、しかもまったくのいなかばあさんでしたから、これで色恋ができるかできないかの詮議《せんぎ》よりも、われながら目きき
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