もんじゃねえか。あんな者でもついうわさをしたばっかりに、だんながないしょのご用とおいでなすったんじゃねえか。これがえにしになって、あのお多福がだんなの玉のこしに乗られるとなりゃ、おいらが一門の名誉というものだ。ようがす、じゃ、ひとっ走り今から呼びに行ってきますからね。ちょっくらお待ちなせえよ」
「バカだな。まてッ」
「えッ?」
「ないしょの用だからといって、すぐときさまのように気を回すやつがあるかッ。女でなくちゃ役者になれんから、ちょっと乃武江を借りるんだ」
「ははあ、なるほどね。じゃなんですね。こんどの事件《あな》の手先にでもお使いなさろうっていうんですね」
「あたりめえよ。ひとり者であったぐあい、女客の多かったぐあいから察するに、色恋からの毒殺とにらんでいるんだ」
「わかりやした、わかりやした。それだけ聞きゃ、あっしだって岡っ引きだ、あとはもうおっしゃらなくとも胸三寸ですよ。じゃ、なんですね、乃武江のやつをおとりにつかって、だれか出入りの女客をつかまえ、そいつの口から色ざたをきき出させようって寸法なんですね」
「しかり――だが、きさまのようにおしゃべり屋じゃあるまいな」
「ちえッ。
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