金大黒とともにかくもたわいのないものではあったにしても、われわれのむっつり右門はやはり最後まで少し人と変わった愛すべく賞すべき右門でありました。
「上には、かくもご憐憫《れんびん》とご慈悲があるのに、それなる女、みずから腹を痛めし子どもを他家へつかわすとはなにごとじゃ。なれども、事はなるべくに荒だてぬが従来もわしの吟味方針じゃによって、そのうえにまた加賀守家というご名門の名にもかかわることゆえ、いっさいは穏便に取り扱ってつかわすゆえ、爾今《じこん》はせっかくご新規八百石をたいせつにいたさねばならぬぞ。したがって、それなる少年にはもうこのうえ河原乞食《かわらこじき》のまねなどをさせたり、あまりろくでもない草双紙なぞを読ませてはならぬぞ。それから、そこの古道具屋、そちはもっといかものをつかまされないように、じゅうぶん目ききの修業をいたし、ずんと家業に精を出さねばならぬぞ、最後に質屋のおやじ、そのほうはこの近藤右門をののしったばかりではなく、恐れ多くもお上一統を卑しめたと申すが、どうじゃ。ちっとはこれで右門が好きになったか。うん?――ああ、そうか。好きになればそれでよろしいによって、今後は伝
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