やつだ、といいたげなまなざしでぎろり右門がおやじの顔を射ぬいたものでしたから、亭主のぎょうてんしたのはもちろんのこと、もみ手が急にひざの上でのり細工のように固まってしまいました。と――右門のいっそうに鋭いまなざしが、そののり細工のように堅くなった亭主の右腕を、じっと射すくめていましたが、不意にえぐるような質問が飛んでいきました。
「おやじ! おまえのその右小手の刀傷はだいぶ古いな」
「えッ!」
「隠さいでもいい。十年ぐらいにはなりそうだが、昔はヤットウをやったものだな」
「ご、ご冗談ばっかり――このとおりの見かけ倒しなただの古道具屋めにござります……」
「でも、道具屋にしてはわしを見そこなったな、新まいか」
「えへへへ……そういう目きき違いがおりおりございますので、とんだいかものをつかませられることがございます……」
「ウハハハハハハ」
と、不思議なことに、突然また右門の態度が変わって、さもおかしそうに大声で、からからとうち笑っていましたが、ずいと座敷へ上がると、からかうように亭主にいいました。
「不意にわしがおかしなことをいったので、きさま、がたがたと、いまだに震えているな。なに、心配せいでもいいよ。ときに、きさまのところで金のお大黒さまとかが紛失したそうじゃってのう」
「あっ。その件でお越しくださりましたか。遠路のところ、わざわざありがとうございます。実は、それが、そのいかにも不思議でござりましてな。あのお大黒さまは、てまえが、命にかけてもたいせつな品でござりますので、神だなにおまつり申しあげ、朝晩朝晩欠かさずにお供物も進ぜるほどの信心をしてござりましたが、さよう、まさしく一昨日のことでござります。朝お茶を進ぜようと存じまして、ひょいと神だなを見ますると、不思議なことに、それが紛失しているのでございますよ。ところが、もっと奇妙なことには、つい目と鼻の先のあのかどの三河屋でございますが、あの質屋の神だなに、その日から寸分たがわぬ大黒さまがちゃんとのっかってござりますのでな、てまえはもうてっきり家のものと存じまして、さっそく掛け合いに参りますると――」
正体がわかって安心したように、べらべらとのべつにしゃべりだした亭主のことばをうるさそうに押えると、右門は突っ立ったままで尋ねました。
「わかった、わかった。もうわかってる。そのことでおまえたちがいがみ合っているこ
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