きいたほどでもねえなんてぬかしやがったんですよ」
「たしかにいったか!」
すると、右門の顔がやや引き締まって、その涼しく美しかった黒いひとみが少しばかりらんらんと鋭い輝きを見せだしましたものでしたから、伝六が勢い込んでそれへ油をそそぎかけました。
「いいましたとも! いいましたとも! はっきりぬかしやがってね。それからまた、こうもいいやがったんですよ。お上の者がまごまごしてどじ踏んでいるから、たいせつな子どもをかっさらわれたばかりでなしに、もう一つおかしなことを近所の者から因縁づけられて、とんだ迷惑してるというんですよ」
「ど、ど、どんな話だ」
「なあにね、そんなことあっしに愚痴るほどがものはねえと思うんですがね、なんでもあの質屋の近所に親類づきあいの古道具屋がもう一軒ありましてね。そうそう、屋号は竹林堂とかいいましたっけ。ところが、その竹林堂に、もう十年このかた、家の守り神にしていた金の大黒とかがあったんだそうですが、不思議なことに、その金の大黒さまがひょっくり、どこかへ見えなくなってしまうと反対に、今度はそれと寸分違わねえ同じ金の大黒さまが、ぴょこりとあの質屋の神だなの上に祭られだしたというんですよ。だからね、古道具屋のほうでは、てっきりおれんちのやつを盗んだんだろうとこういって、質屋に因縁をつける――こいつあ寸分違わねえとするなら、古道具屋の因縁づけるのがあたりめえと思いますが、しかるに質屋のほうでは、あくまでもその金の大黒さまを日本橋だかどこかで買ったものだというんでね。とうとうそれが争いのもとになり、十年来の親類つきあいが今じゃすっかりかたきどうしとなったんだというんですがね。ところが、ちょっと変なことは、その大黒さまのいがみあいが起きるといっしょに、ちょうどあくる日質屋の子せがれがばったりと行きがた知れずになったというんですから、ちょっと奇妙じゃごわせんか」
「…………」
答えずに黙々として右門はしばらくの間考えていましたが、と、俄然《がぜん》そのまなこはいっそうにらんらんと輝きを帯び、しかも同時に凛然《りんぜん》として突っ立ち上がると、鋭くいいました。
「伝六! 早|駕籠《かご》だッ」
「えッ。じゃ、じゃ、今度は本気でだんなが半口乗ってくださいますか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
「乗らいでいられるかい。こんなこっぱ事件、おれが手にかけるがほ
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