右門捕物帖
青眉の女
佐々木味津三
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)忍《おし》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)早|駕籠《かご》だッ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
−−
1
――その第四番てがらです。
すでにもうご承知のごとく、われわれの親愛なる人気役者は、あれほどの美丈夫でありながら、女のことになると、むしろ憎いほどにも情がこわくて、前回の忍《おし》の城下の捕物《とりもの》中でも、はっきりとそのことをお話ししておいたとおり、尋常な女では容易なことに落城いたしませんので、右門を向こうへ回してぬれ場やいろごとを知ろうとするなら、小野小町か巴御前《ともえごぜん》でも再来しないかぎり、とうてい困難のようでございますが、まてば海路のひより――いや、捕物怪奇談でございますから、海路ではなくて怪路のひよりとでもしゃれたほうがいきでしょう。それほどの石部《いしべ》金吉なむっつり右門が、今回の四番てがらにばかりは珍しくも色っぽいところも少少お目にかけることになりましたから、まことに春は価千金、あだやおろそかにはすべからざるもののようです。
ところで、その事件の勃発《ぼっぱつ》いたしましたのは、右門がおなじみのおしゃべり屋伝六とともに、前節の忍の城下から江戸へ引き揚げてまいりまして約半月後の六月初めのことでございましたが、普通ならばあのとおり遠い旅先へてごわい大捕物に行ってきたあとでございますから、月の十日や半月ぐらい大手をふって骨休みがもらえますのに、われわれのむっつり右門はどこまでも変わり者の変わり者たるところを発揮いたしまして、べつに疲れたというような顔もせず、すぐとそのあくる日からご番所へ出仕したものでありました。
しかし、出仕はいたしましても、根が右門のことですから少々様子が変わっていますが、まず朝は五つに出勤いたしますと――五つといえばただいまのちょうど八時です。その五つかっきりにご番所へ参りますると、さっそく訴状箱をひっかきまわして、ひと渡りその日の訴状を調べます。これは自分の買って出るような事件があるかないかを当たって見るので、ないとなるとフンといっ
次へ
全24ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング