有の疎林に囲まれながらわびしく営まれていた幽光院というお寺を見つけると、さもわが家のごとく、すうと奥へはいってまいりました。
「な、な、なあるほどね。このまえのときにゃ御嶽教《おんたけきょう》の行者になったんだが、今度は虚無僧《こむそう》になろうていうんですね」
その幽光院というのは元和《げんな》元年の建立《こんりゅう》にかかるもので、慶安四年の由比《ゆい》正雪騒動のときまで前後三十年間ほど関八州一円に名をうたわれていた虚無僧寺でしたから、鈍いようには見えてもさすがに伝六も右門の手下、早くもここへ回り道した理由がわかったのですが、それよりも賛賞すべきは右門のここへ立ち寄って虚無僧に変装していこうと気のついた点で、呼び招いた相手が知恵伊豆だから、こいつ尋常一様の事件ではないな、ということがいち早くもかれの脳裏に予断されたからでした。まことに賛賞どころか、三嘆にあたいする推断というべきですが、だからおしゃべり屋の伝六の喜び方は、もうひととおりやふたとおりのものではありませんでした。
「こいつあおつだ。おしばや[#「おしばや」に傍点]に出る虚無僧だって、こんないきな虚無僧なんてものはふたり
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