いでいると、まさにそのときでした。
「くせ者じゃッ。くせ者じゃッ。例のやつめがこちらにも押し[#底本では「り」と誤り]入りましてござりますゆえ、お早くお出会いめされい!」
 不意にまた二、三軒向こうの屋敷の中から、やみをついてそう呼び叫ぶ声がありました。まだこちらの始末がつききらないうちでしたから、居合わした警固の面々のいまさらのごとくに二度青ざめたのはいうまでもないことでしたが、伝六もぎょっとなって、血相変えながら警固の面々のあとを追おうとしましたので、すばやくそれを認めた右門が、おちついた声でうしろから呼びとめました。
「まてッ」
「だって、逃げちまうじゃござんせんか!」
「どじだな。今から追っかけていったって、おめえたちの手にかかるしろものじゃねえんだよ。こっちを騒がしておいて、そのすきに隣へ押し入る大胆な手口だけだって、相手の一筋なわじゃねえしろものってことがわかりそうなものじゃねえか。それよりか、ほら、これをな――」
「えっ?」
「わからんか、な、ほら、ぷんといい女の膚みたいなかおりがするんじゃねえか。おそらく、向こうの手首にもこれと同じ移り香があるにちげえねえから、ちょっと
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