その見当がつきましたので、よどまずにさぐりを入れました。
「察しまするに、伊豆守様ご帰藩中でござりますな」
「しッ、声が高い! そちのことじゃから、忍まで参れといえばだいたいの見当がつくだろうと思って、わざとおしかくしていたが、察しのとおり、つい四、五日ほどまえにご帰国なさったばかりじゃ」
「といたしますると、むろんのこと、このたびのお招き状も、伊豆守様がご内密でのお召しでござりましょうな」
「さようじゃ」
「よろしゅうござります。そうとわからば、さっそくただいまから出立いたしましょうが――」
 言いかけてしばらくなにごとかを考えていましたが、右門は突然驚くべきことを、奉行神尾元勝にいいました。
「――ついては、わたくしめにご官金壱百両ほどをお貸しくださりませ」
 徳川もお三代のころ壱百両といえば、四、五年くわえようじで寝ていられるほどの大金なんでしたから、お奉行の目を丸くしたのは当然で――。
「そんな大金をまた何にいたす?」
 ぎょっとしたようにきいたのを、右門はきわめておちつきはらいながら答えました。
「伊豆守様は当代名うての知恵者。その知恵袋をもってしましてもお始末がつかなくて、
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