》の実を、なにかのまじないででもあるかのように、一つかみずつ相手のほうへ移しあったものでしたから、伝六はむろんのことにむしゃむしゃとまだいなりずしをほおばっていましたが、右門はもうすしどころではなくなりました。きわめつけの慧眼《けいがん》によって、こいつ変なまねをしたなと思いましたから、じっと様子を見守っていると、ではおかせぎなせえよ――互いにそう言いかわしながら、ひとりは江戸の方角へ、ひとりは反対の羽生《はにゅう》街道へわかれわかれになってすたすたと足を早めだしましたので、右門はまをおかず羽生へいったほうのあとをつけだしました。
「あっ! だんな、だんな! ほんとうにあきれちまうね。旅に出てまでも、またあの癖を出すんだからね。あっしをひとりおいてきぼりにしておいて、ねずみにでも引かしてしまうつもりですかい」
 うろたえながら伝六が追ってきたのを右門はちいさな声でしかっておくと、二町ほどの間隔をおいて見えずがくれに、くだんのさるまわしをつけていきました。
 と――、いよいよどうもこのさるまわしなる旅の者が不審なのです。ちゃんと太鼓もかかえ、さるも背に負っているんですから、道々商売をかせ
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