たやつばらさ。あくまでも徳川にふくしゅうしようっていう魂胆で、まずそれには、というところから伊豆さまのご藩中へ先に巣を造り、巧みに所所ほうぼうへあのとおりのさるまわしとなって駆けまわり、将軍家の日光ご社参の機会を探っていたというわけさ。ところが、伊豆様はさすがに知恵者、早くもにおいでかぎ知ったとみえて、今度の日光ご社参ばかりはこのおれにさえ隠すほど絶対にご内密を守り、ああやってこっそりとお先にご帰藩もして、それから今夜のようにごく密々で上さまを城中へお迎えするつもりだったんだが、じょうずの手から水が漏れるというやつで、あべこべにそのおん密事をかぎ取ったやつがあの七人組のほかにもうひとりあったものだから、それと知ってさるまわしたちが久喜の宿でも会ったように、たちまち八方へ飛び、まずつじ切り事件が最初に起きたというわけさ」
「なるほどね。じゃ、そろいもそろって腕っききばかりの右腕を切り取ったっていうのも、ねたを割りゃ、いざ事露見というときの用心に、まえもって力をそいでおくつもりなんですね」
「そのとおり、そのとおり。なにしろ、てめえたちの仲間はたった七人しきゃねえんだからな。目抜きのつかい手の肝心な腕切ってかたわにしておきゃ、雑兵《ぞうひょう》ばらの二、三百は物の数じゃねえんだから、さすが真田幸村《さなだゆきむら》の息がかかった連中だけあって、しゃれたまねしたものだが、ところがそれが大笑いさ。なま兵法《びょうほう》はなま兵法だけのことしかできねえとみえて、きさまもかいだあの香の移り香を残しておいたことが、そもそもねたの割れた真のもとだよ」
「ちょっと待ってくだせえよ。だって、だんなはまだ、その香の持ち主をひっくくったとも、捕えたとも聞きませんが、あの七人組の中にそやつもござんしたかい」
「いたとも、いたとも。まっさきに穴の中から出てきたあの前髪のまだ若いやつがその香の持ち主で、つじ切りの下手人なんだよ。おくびょう者と見せかけて、その実は一刀流の達人、しかもかわいそうに、生まれつきの唖《おし》さ」
「えっ、唖!?[#「!?」は横一列] 唖がまたなんだってかたわのくせに、あんな上等の香なんぞからだにたきこめていたんですかい」
「それがあのとおりの美少年だけあって、うれしいといえばうれしい話だが、つまり武士のたしなみなんだよ。いつ不覚な最期を遂げないともわからないっていうんで
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