。それをくれてやるからにゃ、銭金ぐらいの安い代償じゃ、命にかかわるご法はまげませんよ。あの姉のほうの、まっかな顔をしてうつむいている、そこの美しい女の子の、命よりもたいせつな雪の膚をちょうだいしたんですよ」
貞操との交換といったそのひとことには、がらっ八なることおしゃべり屋の伝六までがまゆをひそめていましたが、事件に組みした連座の者を八丁堀の平牢《ひらろう》にさげてしまうと、ふと思いついたか、伝六がたちまちおしゃべり屋のお株を発揮して、黙々とゆううつげに押し黙っている右門に、しつこく話しかけました。
「ね、だんな、それにしても、あっしゃ解せないことがあるんですがね。このまえの南蛮幽霊のときにゃ、だんなはその耳でほしを聞きあてたとおっしゃいましたが、今度のほしはなんでかぎ出したんでがすかい? あっしにゃ、今もってあの女を下手人とだんなのにらんだことがわかりやせんがね」
と――右門の顔が少しばかり明るくなったと思うと、ねっちりいいました。
「それが初めはおれも、おれに似合わねえ大早がてんをしたものさ。きさまからあの片目の用人のせがれのならず者の話を聞いたときにゃ、てっきりほしと思ったん
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