えども両人はご奉行神尾殿からお話しこうむって、きつねつきのお腰元をお静めに参った御嶽行者でござる。霊験はまことにあらたか、たちまちきつねめは退散させてお目にかけるによって、その者にお会わしくだされい」
 こういわれたら、いかな小田切久之進でも会わさないわけにはいきませんでしたので、せめてきつねつきのほうなりと直してくれたらと思いましたものか、すぐに通しましたものでしたから、右門はすましながら奥へ上がりました。
 と、見ると、なるほど窈窕《ようちょう》としてあでやかなひとりの美人が、おどろ髪に両眼をきょとんとみひらいて、青白い面にはにたにたとぶきみな笑いをのせながら、妹の介添えうけてちょこなんとそこにすわっておりましたから、右門はすぐに言いかけました。
「きさまはどこの野ぎつねじゃ」
「てへへへへ、道灌《どうかん》山のおきつねさまじゃ。きさまこそ、どこのこじき行者じゃ」
 すると、言下に女は下等な笑いをつづけながら、この種のきつねつきがつねにそうするように、目をむいて反抗の態度を示しましたものでしたから、右門も負けずに続けました。
「よろしい、おれの霊験を見せてやろう。おれのいうとおりま
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