しも気がつきやしたがね。なんでも、その姉娘はすばらしい器量よしだそうなが、どうしたことか、ついこの五、六日まえから急にきつねつきになったそうでがすよ」
「なに、きつねつき!?[#「!」と「?」は横一列]」
「突然きゃっというかと思うと、いきなりげらげらと笑ってみたりしてね、いちんちじゅう夜となく昼となく髪をおどろにふりみだしながら、屋敷じゅうをうろうろしてるとかいいましたよ」
聞きながら、右門はじっと目をとじて何ものかをさぐっていましたが、突然意想外なことを伝六に命じました。
「よしッ。きさま今から古着屋へとっ走って、御嶽行者《おんたけぎょうじゃ》の衣装を二組み借りてこい」
意表をついた命令で目をぱちくりしている伝六をしり目にかけながら、右門はそのまますうと内奥へやって参りました。内奥はいわずと知れた南町奉行神尾元勝のお座所です。そのことがすでに不思議なところへ、右門はいよいよ不思議なことをおくめんもなくお奉行へ猪突《ちょとつ》に申し入れました。
「ちと必要がござりまして、ご奉行職ご乗用の御用|駕籠《かご》を二丁ばかりご拝借願いたいものでござりますが、いかがなものでござりましょうか
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