んだから、きわめて平然とおちついたもので、むっつりとまた昔の唖《おし》にかえると、敬四郎の敵対行為などはどこを風が吹くかといいたげに黙殺したままでした。勤番の日は奉行所の控え席に忘れられた置き物のごとく黙々と控え、非番の日にはお組屋敷でいかにもたいくつそうにどてらを羽織り、ひねもすごろごろと寝ころがって、しきりと無精ひげを抜いては探り、探ってはまた抜いてばかりいましたので、こうなると自然気をもみだしたのは右門の手下の岡《おか》っ引《ぴ》き、おなじみのおしゃべり屋伝六です。また、伝六にしてみれば、右門のてがらのしりうまにのっかって、かれの名声も相当高まっていたものでしたから、もう一度柳の下の大どじょうをすくってみたく思ったのは無理もないことだったのでしょう。ちょうどその日は非番の日でしたが、じれじれしながら様子を伺いにやって行くと、表はもう四月の声をきいてぽかぽかと頭の先から湯気の出そうな上天気だというのに、右門は豚のように寝ころがりながら、あいかわらず無精ひげを抜いては探り、探っては抜いていましたので、伝六はさっそくお株を出して、例のごとく無遠慮にがみがみといったものでした。
「ちえッ
前へ
次へ
全46ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング