か、功名を争ってやろうよ」
 決心したとなれば、まことにはやきこと風のごとし――もう、かれの足は真昼中の往来を小急ぎに歩きつづけていたのでした。行く先はいうまでもなく番町の旗本小田切久之進方――目的は、これまたいうまでもないこと、どこからどういうふうに探索の手を下すにしても、まず小田切その人に当たる必要があったからです。会って、そしてまず第一に、それが目的あっての犯罪であるか、それともただのいたずらであるか? 犯罪としたら、どういう目的のもとにかかる奇怪事を三たびまでも繰り返して行なったか? 第二には、疑問の中心点であるごく内密にしてほしいといったそのことの理由について、なんらかの糸口とひっかかりを発見しないことには、それこそ伝六のいいぐさではないが、このぶきみきわまる怪談のあばきようがないと思いついたからでした。
 けれども、せっかく勢い込んでやって行ったのに、残念ながら右門の出動はひと足おそかったのです。
 むろん、自分より先にあばたの敬四郎が手を下していることは知っていましたから、おおよその覚悟も予想もつけていったのでしたが、事実ははるかにそれを越えて、小田切方の屋敷内はすでにその直属の岡っ引き目あかしなぞ配下一統の者によつて、秘密に厳重な出入り禁止を施されたあとだったからでした。小しゃくなと思いましたが、目的は主人の小田切久之進にありましたから、かれらが町方の者ならば、自分も同じお公儀の禄《ろく》をはむ者であるという見識を示して、堂々その禁を破り、堂々と官職姓名を名のって主人に面会を申し込みました。
 ところが――当然会わねばならないはずのものが会ってくれない! 不思議なことに、会ってくれない! もはや手配済みでござるから、このうえのご配慮は迷惑でござる――そういう理由のもとに、半ばお直参の威嚇を示しながら、ぴたりと面会を峻拒《しゅんきょ》いたしました。
「臭いな」
 右門の疑惑は二倍に強まりましたので、その威嚇を犯して、あくまでも面談を強請いたしました。けれども、小田切久之進は顔さえも見せないで、いよいよ奇怪なことに、いっそうろこつなお直参の威嚇を示しながら、重ねて右門の申し入れを峻拒いたしました。これはどうしたって、会わないというその事がらに対して疑いを深めるより道はないのだけれども、相手は小身ながらともかくもお直参のかさを着たお旗本なんでしたから、右門
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