方針として、かれらは等しく与力次席の坂上親子に疑いをかけていたのです。
けれども、右門の捜査方針は、全然それとは正反対でありました。あくまでも見込み捜査で、疾風迅雷的に殺された本人――岡っ引き長助の閲歴を洗いたてました。いずれ遺恨あっての刃傷《にんじょう》に相違なく、遺恨としたらどういう方面の人物から恨みを買っているか、その間のいきさつを調べました。
しかし、残念なことに、その結果はいっこう平凡なものばかりだったのです。判明した材料というのは次の三つで、第一は長助が十八貫めもあった大兵肥満《たいひょうひまん》の男だったということ、第二はまえにもいったように葛飾《かつしか》在の草|相撲《ずもう》上がりであったということ、それから第三は非業の死をとげた三日ほどまえにその職務に従い、牛込の藁店《わらだな》でだんなばくちを検挙したということでありました。しいて材料にするとするなら、最後のそのだんなばくちの検挙があるっきりです。
で、かれは念のためにと思って、お奉行所《ぶぎょうしょ》の調書について、そのときの吟味始末を調査にかかりました。と――まことに奇怪、検挙事実は歴然として人々の口に伝
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