れを重ねると、田上に渡した。田上は何かうなずきながらそれをうけとったが、あらたまったようにみんなの方をむいて言った。
「平尾君をのぞいて、校友会の委員全部がこの願書に署名したわけだが、これ以上に署名者をひろげる必要があるかどうか、ひろげるとすれば、五年だけにとどめるのか、或は四年以下にもひろげるのか、その点についてこれからみんなで相談したい。」
 すると、馬田がまちかまえていたように、真先に発言した。
「そりゃ、むろん、全校にひろげなくてはうそだよ。朝倉先生の留任は八百学徒の総意だという意味が、その願書にも書いてあるんだから。」
 しかしこれには誰も賛成するものがなかった。ある者は「それは実行不可能だ」と言い、ある者は「そんなことをしていたら、願書を出すのはいつになるかわからない」と言い、またある者は「それこそぶちこわしになるもとだ」と言った。しかしいろいろの反対論のなかで、何ということなしにみんなの心にひびいたのは大山の言葉だった。彼はいつになくしんみりした調子で言った。
「一年や二年の小さい生徒にまで血判をさせるのは、かわいそうだよ。」
 馬田の意見が葬られたあと、四年以上全部説、
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