いうちに、朝倉先生は、もう、玄関に待たしてあった人力車にとびのって、駅の方へ急いでいたのであった。
 送別式に何かの波瀾《はらん》を予想し、興味本位でそれを期待していた生徒たちも決して少くはなかった。彼らは、見送りのために校庭に集合しながら、くちぐちに言った。
「つまんなかったなあ。……朝倉先生、もっと何か言うかと思っていたよ。」
「僕は、先生の最後の雄弁をきくつもりで張りきっていたんだが、がっかりしたね。」
「何んだか、ばかにされたような気がするね。」
「うむ。しかし、校長はほっとしたんだろう。」
「校長を安心させて、僕たちを失望させるって法はないよ。」
「朝倉先生も今日はどうかしていたね。」
「妥協したんじゃないかな。」
「そうかも知れん。でなけりゃあ、もう少しぐらい何か言うはずだよ。」
「しかし、辞職してしまってから妥協したって、何にもならんじゃないか。」
「これからさきのことを考えたんだよ、きっと。」
「ふうん、そうかもしれんね。」
「このごろは、一度憲兵ににらまれた人は、よほどおとなしくしないと、日本国中どこに行ってもにらまれるそうだからね。」
「そんなこと、誰にきいたんだい
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