いつも、僕たちの人間修業なり自治生活なりの基礎になるような、いろんなヒントを与えてもらうことが必要だ。僕はそんな考えで、学寮でたびたび意見をのべてみたこともあるが、残念なことには、現在の僕たちの学校の様子では、そのどちらも見込みがなさそうだ。学生の側では、学生の特権をすてるのも、先生の指導をうけるのも、自治に矛盾すると勘ちがいしているし、先生の側では、どの先生も君子危きに近よらずで、早晩お上から錬成の風が吹いて来るのを心待ちにしている、といったような状態だからね。もし全国の高校がこの調子だと、或いは諸君が高校にはいる頃には、もうほんとうの意味の高校生活なんてどこにもなくなっているかも知れない。僕は、それを思うと、諸君がたとい中学時代だけでもこうして白鳥会にはいって、謂ゆる錬成でない、ほんとうの人間修行をやっていることは非常な幸福だと思うよ。」
 みんなの解散したのは十一時に近かった。解散するまえに、朝倉先生の東京における新しい住所がみんなの手帳に書きこまれた。
 恭一、次郎、大沢の三人も、先生夫妻を見おくって、土手を大かた二丁ほど歩いたが、わかれぎわに先生は、三人の手を代る代る握って、
前へ 次へ
全368ページ中285ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング