え、
「この会は校友会の委員会だ。だから僕は委員諸君にたずねている。委員以外のものはだまっていてくれたまえ。」
 廊下の方にぶつぶつ言う声がきこえ、室内もいくらかざわめき立った。新賀は、しかし、平然として、
「どうだ、委員諸君、君らは約束を忘れたのか。」
 誰も答えるものがない。沈默の中にみんなの眼だけがやたらに動いた。
 とりわけ動いたのは馬田の眼だった。彼は新賀が立ち上った瞬間から、冷笑するような、それでいて変に落ちつかない眼をして、あちらこちらを見まわしていたが、沈默がつづくにつれ、それが次第にはげしくなり、しまいには、顔をねじ向けて廊下の仲間の一団を見た。そして何かうなずくような恰好をしたあと、わざとのように天井を見、いかにもはぐらかすような調子で言った。
「そんな約束なんか、どうだっていいじゃないか。」
「ふざけるな!」
 と、新賀は一喝して馬田をねめつけた。馬田もみんなの手まえ、さすがにきっとなって、
「ふざけるなとは何だ。僕はまじめだぞ。」
「一旦結んだ約束を、どうでもいいなんて、まじめで言えるか。」
「言える。目的にそわない約束は無視した方がいいんだ。」
「そうだ!」

前へ 次へ
全368ページ中128ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング