、あまり気のりのしないらしい返事をした。
「きいていて、すぐ帰って来ちまったの?」
まるで詰問でもするような調子である。次郎にくらべてやや面長な、いくぶん青味をおびた顔に、才気がほとばしっており、末っ子らしいやんちゃな気分が、その態度や言葉つきにしみでている。
次郎は答えない。
「みんなで君をさがしていたよ。」
俊三は、いつの間にか次郎を君と呼ぶようになっていたのである。
「僕を?」
「そうさ。でも、見つからないので五年の連中が四五人でうちにやって来ると言っていたんだ。」
「そうか。」
「もうじき来るだろう。来たら道江さんはいない方がいいね。」
それは決して俊三の皮肉ではなかった。次郎は、しかし、少し顔をあからめて道江を見た。さっきからのこともあり、二重の意味でうろたえたのである。
道江はすぐ立ちあがったが、しかし、もうその時には、階段の下には生徒たちのさわがしい声がきこえていた。階段は土間からすぐ上るようになっており、次郎や俊三の親しい友達は、時には案内も乞わないで上って来ることがあるのである。
次郎は、道江より先にいそいで階段の上まで行き、彼らをむかえた。そのため道江は
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